夏の暮れ

 

 

しゅるる

しゅるる

なじみのない

虫の声だ

外からなのか

内にいるのか

わからない

しゅるる

しゅるる

 

 


はじめての道

 

 

2人の娘と散歩に行った

いつも通っている道

ここには紫陽花がある

こっちには朝顔

アスファルトの隙間に咲く

小さな白い花さえ

娘は見逃さないので

なかなか散歩は進まない

あちらには鯉の泳ぐ池

木の上から聴こえる小鳥の声

立ち止まり耳を澄ましてみる

がさっと鳥は去っていった

少しぬかるんだ地面を覗けば

小さなカエルが二匹

まだ生まれたばかりの

小さな小さな姿

いつも通っている道

娘と歩くとそこは

いつでもはじめての道になる

 

 


雨後

 

大雨は止んだ

家の前の川も

随分と落ち着いてきた

雲間からの陽が

今日はやけに明るく感じられる

橋の上では

今年はじめてのとんぼが三匹いるし

あちらの木では

セミがミンミン鳴いている

 


 
夕闇を歩いていたら
がさっと音がした
木にとまっていた
二羽の鳥が
飛んで行くところだった
木はまだ少し揺れていて
先にはふっくらと
白の蕾がいくつもついていた

川の掃除

 

 

家の周りの

細い川の水草を

三年も好きにさせていた

たいそう荒れたものだ

仕様がない仕様がない

手に鎌持って

今日は刈るのだ

軍手をぐっしょり

濡らしつつ

手に鎌持って

今日は刈るのだ

刈った水草は

陸に揚げよ

根元に溜まった

落ち葉も陸に揚げよ

その繰り返し

繰り返し

気づけば

そこここに

できていく

水の路

ここにも

そこにも

隠れていた

水の路

川が流れていく

 

 

 


カーテン

 

 

どれほど前から

使っていたのかは

もう覚えてはいないのだ

小部屋の窓際につけられた

つぎはぎだらけの

レースのカーテンのことだ

10月ある日の正午付近

突然に破れてしまったのだ

窓から差し込む強い陽が

びりびりびりと

破っていってしまったのだ

 


断絶

 

 

秋も半ばだ

葉は真っ赤に色づいた

からからに乾いた

もういつ落ちたっていい

冷たい風が吹けばいい

もう何日も何遍も

そう思っているのに

今日の風なんかでは

また昨日と同じことだ

葉が枝に擦れて

ガリガリいうくらいだ

 

 


丸い月

 

 

息だけをしていた

笑うことを忘れていた

考えることを忘れていた

怒ることを忘れていた

泣くことを忘れていた

他に仕様がなかったから

地面の底で

息だけをしていた

そんな日々が続いた

ある日の晩にでた

丸い月

闇夜にぽーっと浮いて

辺りを黄金に照らす

丸い月

 

 


同じ道で

 

 

去年の今頃にも

この山道を通っていた

目に映っていたのは

整備された道

アスファルト

好きでもない歌を流して

切り抜けるようにして

やりすごしていた山道

わたしはいま

その山道を走っている

目に映るのは

森の木々の色

豊かな色

赤と黄のあいだにある

無数の色を

わたしは知った

去年と同じ頃合い

同じ山道

同じ車に乗りながら

赤と黄のあいだにある

無数の色を

わたしは知った

 

 

 


あめふれ

 

 

あめふれ

あめふれ

しとしと

あめふれ

むしは

あめでも

なきやまぬ

 

 


通過

 

 

通過です

通過です

大風

揺れる窓

血色の空

通過です

あたりは静かです

虫の音だけが

聴こえます

 

 


死骸

 

 

玄関前で

仰向けに

干からびた

蝉の死骸だ

 

 


移り
 
まだ梅雨だ
待てなかった虫だ
ちりりりり
じりりりり
あたりが
みちていく
みちていく

風の音

 

 

木の葉揺らして

風が走っていく

さーっといく

さーっといく

あたりが

その音だけに

なっていく

 


昨日の雨

 

 

今日は水路が

たっぷりしている

刈られた草花

ぐんぐん流れる

昨日雨でも

降ったんだったか

      

 


失念

 

 

 

薄紅色の雲が浮いていた

冷たい風が吹いていた

鳥がまだらに飛んでいた

歩いているのが愉快であった

 

 


雨宿り

 

 

小雨に灰の雲

微かな風

軒下の小鳥は

まだ飛ばない

小さな声で

啼いている

 

 


青の小鳥

 

あらびっくりだ

はじめてみるなぁ

どこからきた

なまえはなんだ

 


春の小鳥
 
あっちだぞー
みんな
ついてこいよー
あっちだぞー

黄の蝶

 

 

黄色の

蝶々が

ふらふら

外へと

出て行った

 

 


石積み

 

 

だれが積んだろう

どうして積んだろう

おかまいない

おかまいない

川辺の

大きな石積みを

みっつの娘が登る

からだまるごと

ずんずん登る

 

 


虫の声

 

 

ついさっき

うまれてきたのか

かすかな声

・ち・・ちち・・

 

 


 

 

赤い光

強い光

あんな星など

はじめてみた

 


か細い声

 

 

深い夜の

雨の後

澄んだ声

か細い

虫の声

 


開かれ

 

 

雨と雷

ようやく止んだ

あたりは明るい

虹が出ている

 

 


はじまり

 

 

声がする

鈴虫だろうか

どこにいるのだ

まだ8月のはじめだ

 


変位

 

 

かみなり

あめふり

けっこう

けっこう

はれてばかりで

なんにも

みえなかったところだ

 


 

 

夜になった

月が出ている

夕焼けの赤は

まだ消えない

 

 


途上

 

 

支柱のついた

細い木だ

大風吹いて

ぐらぐらだ

 


数羽の鳥

 

 

こっちだ

こっちだ

おいてくぞー

ついてこいよー

 

 


窓の外

 

 

ぴりりぴりりと

鳥が啼く

あんなに

いそいで啼く

 

 


ルドン

 

 

黒と緑の渦

身を投げろ

しばらく

眼をつぶれ

 


兆し

 

 

曇っていたのに

カラリとしてきた

鳥がそこらで

啼いている 

 


三日月

 

 

鋭い月だ

あの刃に触れれば

血が流れる

 

 


 
外を歩いていたら
周りがやけに明るいのだ
さっきまでは底にいた
暗いところで
つついたり
はがしたり
つねったりしていた

雨の後

 

 

雨降った

花弁が

下向いている

風はぬるい

 


まだらな雲

 

 

まだらな雲

薄い雲

丸い月が近い

 


黒い猫

 

 

細い路地へ

見たことない

黒い猫

 


春の芽

 

 

ああ伸びてるな

よく伸びてるな

冬の間はどこにいた

何にも心配いらなかったんだ

 

 


あれあれ

 

 

おうおう

芽が出ている

葉が茂っている

なんにも心配いらなかった

 

 


夜の雨

 

 

真っ暗な

寝床で

聞いている

雨はまっすぐ

降っている

 

 


深い夜

 

 

深い夜

鳥の金切り声

ここらを旋回し

しばらく止まない声

 


落下

 

 

風はない

鳥もいない

あんまり静かだ

桜が散っている

 


ガリガリ

 

 

落ち葉

地面と擦れている

ガリガリという

 

 


田んぼ

 

 

水を張った田んぼだ

陽が照りつけて銀色だ

農夫が傍にいる

 


 

 

木の上で

ぴぃぴぃ

小鳥が鳴いている

きれいな声だ

ああそうだ

ついこの間

遠くを見つめ

何にも言わない鳥がいた

もしやあの鳥か

お前は

 


たわむれ

 

 

影踏み

落ち葉拾い

石蹴り

肩車

なかなか進まない

娘との散歩

上向けば

風に揺れる木の葉が

けらけら笑っている

 


桜の道

 

 

桜の道で

黄の蝶

行く当てなし

ふらふらふらふら

舞っている

 

 


3月末

 

 

薄暗い

石塀の前

真っ赤な花弁が

ぼたぼた落ちていた

 

 


 

 

雲とか太陽とか

それくらいしかないだろうに

どうしてそっちとわかるのだ

教えてくれないか 

なぁ鳥よ

 


7か月

 

 

手が動くぞ

楽しいぞ

足が動くぞ

楽しいぞ

大声出せるぞ

楽しいぞ

歩けはしないぞ

悔しいぞ

 


春の川

 

 

春の川

ぐんぐん行く

水を運べ

運べ運べ!

 


カタカタ

 

 

カタカタと

外壁にあたる雨音

部屋の中まで

にじんでくる

にじんでくる

 


 

 

雲が重たい

鳥がばたついている

 

 


一筋

 

 

こんな岩肌

流れている

一筋の水が

 


遠く

 

 

枯木の小鳥

鳴かない

じっと遠くを

見つめている

 


迷った鳥

 

 

 

まよった

こまった

ここどこだ

あっちへこっちへ

ちょこちょこちょこ

そっちにむかうか

ちょこちょこちょこ

どうやらちがうな

ちょこちょこちょこ

こっちのうしろか

ちょこちょこちょこ

こっちもちがった

ちょこちょこちょこ

ちょこちょこちょこ

・・・

 

 


3月半ば

 

 

窓開けた

風ぶわっと流れてきた

 


雪解け

 

 

雪解け水

ちょろちょろ

山道を下っている

 


 

 

 

この雨しのぐ

傘なし

濡らされ

伏し目がち

道歩く

 

 


曇り

 

 

雲おぶった鳥

低くはあるが

飛んではいる

 


 

 

ああよかった

よかった

今年も咲いた

梅咲いた

鮮やか鮮やか

鮮やかないろ!

よく耐えた

よく耐えた

冬よく耐えた

ごわごわの

皮ついた

幹や枝たち

冬よく耐えた!

 

 

 


 

 

 

びっくりだ

もうあんな遠くまで

飛んでったのか

さっきまでここらで

もじもじしてたのに

ちょっと目を離した隙

飛び始めたら

はやいんだなぁ

家でも電線でも

ひょいひょい越えていく

こちとらびっくりだ

 

 


枝間

 

 

枝間につっかえた

雪のかたまり

まだ落ちない

 

 


 

雪融け 

 

 

雪融け水が

水路に落ちる

カタン

テロン

トトコン

カタン

カタタン

トロン

 

 

 


小池

 

 

ひとり小池で

水飲んでいた鳥

人に姿見られ

そそくさと

木陰に隠れる

 

 


雨粒

 

 

嵐の夜の

庇にあたる雨音を

しばらく聴いていた

刺すようでいて

滲んでもくるような

不思議な音をしていた

 

 


遠く

 

 

 

鳥の声がする

どこかで鳴いている

あちこち眺めても

見えないけれど

たしかにどこかで鳴いている

 

 


黄の実

 

 

枯れ木に残った

黄の実ひとつだけ

 


三月

 

 

よくしゃべる

よくしゃべる

聞いてもないのに

鳥よくしゃべる

 


転向

 

 

つと向き変えた鳥

細い路地からだごと

 

 


 

 

青い青い

広い広い

これはこれは

いいところへ出た

 


 

 

雪の後の陽はよい

こんなに明るいものかと

疑うくらいによい

 

 


雪の中

 

 

雪に埋もれていたら

聞こえてきた音

細い川

 

 


 

微妙な声

 

 

さっき土から芽が出たような

少し明るいところへ出たような

ひどくほそくてかよわいのだが

けれどたくましくもあるような

そんな微妙な声を震わせて

小さな鳥が鳴いている

 

 

 


小鳥

 

 

 

ちょっと歩いて

飛びかけて

やっぱりやめて

ちょっと歩いて

飛びかけて

やっぱりまたやめて

ちょこちょこして

また飛びかけて

またやめて

そのくりかえし

そのくりかえしをくりかえし

さっきようやく

飛んでった

 

 


訪れ

 

 

風が窓を揺らした

カタッと音がした

そのあと鳥が来た

 


兆し

 

今日吹く風は

なんだか違う

冷たいままなのに

何かを運んでくるような

そんな風だ

 


冒険

 

 

木は揺れながら

なんとか保っている

冒険している

 


 

 

畑に来たのに

なんにもなかった

鳥は黙って

待つことにした

 

 


拮抗

 

 

背を向けあう

二羽の鳥

どっちへいく

 


荷重

 

 

重さに耐えている木

のたうち回っている 

 


欠け

 

 

満月に見えたが

すこし欠けていた

 


尻尾

 

 

影迫って来た

尻尾を切った

 


混沌

 

 

森まさぐっていたら赤い実がとれた

 


不言

 

 

雪に降られても

何も言わない木

 


発芽

 

 

土から出て来た

こんなに明るい

 


照度

 

 

窓に射す光

こんなに明るかったか

 

 


 

 

あたり一面

光が射している

 


迷宮

 

 

水探している鳥が居る

 


目撃

 

 

みんなで遊べなかった娘が

みんなと遊んでいる